【もうどうにでもなーれ】 無制限為替介入を撤廃したスイス国立銀行
2015年1月、スイスの中央銀行のスイス国立銀行は、数年間続けてきた無制限為替介入を撤廃することを発表した。
これは、世界の国々で起きる多くの経済・金融・財政危機の度に、強い通貨高圧力を受け続け、それでも頑張って何とか戦ってきたスイス国立銀行の降伏の白旗だった。
そもそもスイスフランが高騰した理由
- ロシアルーブルの急落でスイスフランへ資金が逃避
- ユーロ問題や一部の国のデフォルト危機でスイスフランへ資金が逃避
スイスフランは円と同様に、安全資産として危機や経済・金融問題が起こる度に買われてきたため、国力や経済力以上の通貨高に陥った。
スイス国立銀行はチョコチョコと為替介入を続けてきたり、超大規模金融緩和を行ったりと、あれこれ対策は打ってきたものの、スイスフランが買われる流れは止まらなかった。
スイス国立銀行は対ユーロで上限を設定し、無制限の為替介入を発表
2011年9月6日、あまりにもスイスフランの上げが酷いので、スイス国立銀行は無制限の為替介入を発表した。
ここからスイス中銀の際限のない、苦しい為替介入が始まった。
このスイス国立銀行の発表により、スイスフランは一時的に爆下げした。
そして、一時的な爆下げの後、スイス国立銀行の設定する防衛ライン付近にベッタリ貼りつくような形で推移した。
スイス国立銀行が為替介入を続けた結果
スイス国立銀行は3〜4年ほどの間、大規模な為替介入を続けた。
何年にも及ぶ大規模な為替介入で、スイス国立銀行のバランスシートは膨れ上がった。
外貨準備は数年で10倍近くにもなった。
それは、国内総生産(GDP)の約85%に達するほどの凄まじい外貨準備だった。
その膨れ上がった外貨準備の激増は、スイスで問題にされるようになった。
そして、大量に外貨準備がある状態で、為替介入をしてスイスフランが安くなれば、スイス国立銀行が債務超過に陥る可能性が出てきた。
(実は、ごく一瞬だけ債務超過に落ちたっぽい)
スイス国立銀行が行ったスイスフラン下落策
スイスフラン売り + ユーロ買いの無制限介入
1ユーロ = 1.20スイスフラン の上限を設定・無制限に為替介入を行う。
デフレを食い止めるため、介入資金を吸収しない非不胎化の為替介入。
(詳しくは、【吸収】 為替介入の不胎化について 【放置】を御覧ください)
マイナス金利の導入
2014年12月18日 マイナス金利を導入
スイス国立銀行の為替介入の結果
スイス国立銀行の金融資産が劣化した
スイス国立銀行が為替介入で得た外貨準備が、スイス国立銀行の資産のメインになってしまった。
しかも、スイス国立銀行が為替介入をすればするほど、どんどんこの外貨準備は膨れ上がっていく始末。
デフレは改善しなかった
非不胎化の為替介入(お札を刷って為替介入して、市場からそのぶんのお金を吸収しない)をしているにも関わらず、デフレが改善しなかった。
キャリー・トレードに利用された
ユーロに対して、スイスフランの上限を設けてしまったしまったことで、スイスフランがキャリー・トレードに利用されるようになった。
(スイスフランの上昇が、高金利の通貨の国の火種になる)
スイス国立銀行の為替介入の撤廃を発表
金融関係の投資企業などに先んじて行動されるのを防ぐためか、スイス国立銀行の為替介入の撤廃は不意を突いた形で発表された。
不意打ちを食らった金融系の企業の中には、大きな損失を出したものもあった。
(倒産してしまった金融会社もあった)
また、ダメージ軽減(?)のため、マイナス金利の拡大を同時に発表。
(中銀預金金利を-0.25% → -0.75%)
このマイナス金利はダメージ軽減になったのかはわからない。
みんなそれどころじゃない状態で、洗濯機の中に放り込まれたように阿鼻叫喚の世界が広がった。
あまりの状態に焦ったのか、スイス国立銀行は 『 為替状況によっては再び積極介入する 』 と発表した。
以前の 1.20スイスフランの防衛ラインを維持することは困難だったが、この後、少しずつ相場は落ち着きを取り戻した。
自らが行ってきた為替介入についてのスイス国立銀行のコメント
フランの価値が過剰に評価されていたので、対ユーロ上限政策でスイスの経済のダメージは軽減された。
スイスフランは持続可能な水準に落ち着く。
スイス国立銀行がスイスフランの無制限介入をやめた理由
リーマン・ショック以降、ヨーロッパの経済は立ち直りが遅く、景気や物価の下落はジワリジワリと続き、デフレがすぐそこまで迫っていた。
そんな状態の中、ユーロ圏の国々の中央銀行である欧州中央銀行(ECB)は、近々、大規模な金融緩和をするのではないかと噂されていた。
大規模な金融緩和が行われる前ですら、無制限為替介入のせいで膨れ上がった外貨準備にヒーヒー言っているスイス国立銀行。
このスイス国立銀行が、ECBの大規模な金融緩和に耐えられないのは誰の目にも明らかだった。
そして、大規模な金融緩和が決まるとされていた欧州中央銀行理事会の1週間前。
ECBの大規模な金融緩和量的緩和にはとても耐えられないと判断したスイス国立銀行は、スイスフランの上限を維持するための無制限の為替介入を撤廃した。
スイス国立銀行がスイスフラン介入をやめた結果(為替編)
フランの急上昇
ユーロに対して一時41%上昇
1ユーロ 0.8517スイスフラン
(過去最高値)
その後、上げ幅が急速に縮小。
1.0255スイスフランまで下落した。
スイスフラン/円相場
為替介入停止発表前
116円/フラン
為替介入停止発表後
131円/フラン
外為市場の取引に、一時的な障害が発生
金融ブローカー2社が閉鎖
アルパリ(UK)
グローバル・ブローカーズ
スイス国立銀行がスイスフラン介入をやめた結果(中央銀行編)
スイスフランとユーロの上限をなくしたため、ユーロが対スイスフランで暴落。
スイス国立銀行の保有していたユーロ建ての外貨準備に多くの為替差損が出た。
また、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行が大赤字になった。
2015年1-3月期
300億スイスフランの赤字
(2015年5月頃の為替で4兆円近く)
2014年1-3月期
43億スイスフランの黒字
(2015年5月頃の為替で5000億円近く)
スイス国立銀行がスイスフラン介入をやめた結果(株編)
スイスの株式市場が急落。
スイスの輸出企業は大暴落。
SMI指数は、一時10%超下落。
時価総額 1330億フラン(約17兆円)が消え去った
スウォッチ | 約-17% |
ネスレ | 約-11% |
UBS | 約-12% |
クレディ・スイス | 約-11% |
スイス国立銀行がスイスフラン介入をやめた結果(債権編)
スイス国債に資金が殺到したので、スイスの10年債利回りが過去最低まで下落した。
(スイス国債の債券価格が過去最高まで上昇した)
スイス国立銀行が無制限為替介入をやめてしまうため、スイス国立銀行によるフランス・ベルギーなどのヨーロッパ諸国の国債の買い入れ額が激減することが予想されるため、フランス・ベルギーの国債価格は急落し、国債の利回りが急上昇した。
日本やアジア株への影響
いつものように日本円もとばっちりを受け急騰。
(何かにつけてとばっちりを受けて急騰する日本円)
円の急騰により、輸出関連の銘柄を中心に大幅に下落した。
日経平均株価 | -244.54(-1.43%) |
TOPIX | -12.87(-0.93%) |
香港ハンセン | -247.39(-1.02%) |
上海総合 | +40.04(+1.20%) |
韓国総合 | -26.01(-1.36%) |
台湾加権 | -26.80(-0.29%) |
オーストラリアASX | -31.80(-0.60%) |
ニュージーランドNZX | 50-25.33(-0.45%) |
インドネシア総合 | -40.33(-0.78%) |
インドムンバイSENSEX30 | +46.34(+0.17%) |
スイスフランの高騰による長期的な影響
スイス経済には負の影響が多く出ることが予想される。
また、キャリー・トレードに打撃が出たり、スイスフラン建てでローンや融資を受けている高金利の新興国の人々や会社にも深刻なダメージがくる可能性がある。
- スイス輸出企業・観光業の競争力低下
- スイス企業の株価の低迷
- スイス経済の景気悪化
- インフレ率が低下(若しくはデフレ化)
- スイス国外での消費が増える
- スイスフランが爆上げすると、キャリートレードに深刻な打撃
- 政策金利のさらなる引き下げ
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